キミとは致命的なズレがある

キミとは致命的なズレがある (ガガガ文庫)

キミとは致命的なズレがある (ガガガ文庫)

キミとは致命的なズレがある 赤月カケヤ

作者の応募時の名前が『名前で悩むくらいならまずカケヤ』で、かなり興味を持っていました。
偶然近所の本屋で見つけたので、購入。

過去の記憶がない主人公、海里克也の元に差出人不明の不幸の手紙が届くところから自分の日常に疑問を持ち、自信の過去を思い出す話でした。
面白かったです、面白かったのですが、何か物足りない感じがすごいある。
かなり惜しい、そんな気がします。

主人公は過去の殺人事件の重要参考人なんですが、すっかり記憶をなくして普通の高校生。
物語の結構序盤に、被害者の親に襲われて事件の事を知ってしまいます。
そこから自分が二重人格で快楽殺人者なんじゃないかと疑って、色々調べるうちに勘違いからどんどん疑心暗鬼になってしまいます。

まあ、こう言う話のときって自分が犯人なんじゃないかって疑ったらたいてい犯人じゃないですよね。逆もまたしかり。


伏線もきちんと張られていましたし、物語の結末もはっきりと分かりやすいものでした。ミスリードはあからさますぎて引っかからなかったですが、一人称視点での幻覚幻聴を取り扱っているのに訳が分からなくなったりせず文句の付けどころは無かったです。
が、敢えて言わせて頂くと、もうちょっと殺人事件が起きてもいいんじゃないかってことですね。

過去の殺人事件は、小学生が小学生を面白半分に虐殺するという凄惨なもので、真犯人は人を人とも思わない結構アレなやつで主人公のすぐ近くにいたんですけど、その割に作中明らかになった殺人が少ない気がしました。
(しかし、今読み返していて気付いたのですが多分真犯人も自信の記憶を意図的に思い出さないようにしていたので、その間は殺人衝動的なものはなかったのかもしれないです。多分「あっ、忘れてた」ってとこで全部思い出したのかな? しかし、あんまりそう思われる描写はなかったような)

あと結末が急ぎすぎな気がしましたね。
ちょっとずつ真相に近づくのではなく後半50ページで一気に明らかになってしまいました。それも推理したわけじゃなく主人公の記憶が戻ったのと真犯人の自白で。
あと、散々うだうだ自分について考えてた主人公が、自分のイマジナリフレンドが他人にも見えていた事に何も疑問を抱かなかったところも不服っちゃー不服でした。
あと事件の生存者について父親がきちんと把握してなかった事もよく分からん。あと同じ高校に事件の犯人と容疑者と被害者が一堂に会するなんて、なんてご都合主義!

それでも幻覚とか幻聴とかにきちんと理由もあり、「実は犯人には俺が見えていなかったのだー!!」「な、なんだってー!!!」みたいなとんでも推理で決着をつけられた訳でもなく、
もっとこうなんか色々したら「すべてがFになる」的な廚二感ありつつ納得もできるミステリみたいなものが書ける作者だと思ったのに!
思ったのに!
次の作品が学校に宇宙人?かなんかがせめて来て超パニックって!ミステリじゃねーじゃん!

……それ以前に、「キミとは致命的なズレがある」も別にミステリじゃなかったのかもしれない。